見谷昌禧のプロフェッショナルの視点 2006/2007
9、キッツビューエル(オーストリア)のスラローム
1位、イェンス・ビッグマルク(SUI) 2位、マリオ・マット(AUT)
3位、アロイス・ヴォグル(GER) 4位、シルバン・ツルブリッゲン(SUI)

 2007年1月27日、オーストリアのキッツビューエルで男子回転第5戦が行なわれた。このレースは、スイスのウェンゲンのラバホーン大会が雪不足で中止となり、このキッツビェールで代替レースがおこなわれたものである。

 今年は雪不足のためにアルペンの5大クラッシレースの開催に大混乱が生じている。その一つのウェンゲンでは、スーパーコンビ(滑降+回転1本)のレースは辛うじて行われたが、回転レースのコースは土が出ての最悪のレース。このレースを強引に開催できただけでもスピード系の選手にとっては幸運だった。本来は、滑降と回転のレースが予定されていたのが回転は中止。次にフランスのシャモニーでは、滑降とスーパーコンビの二つのレース共に中止。スピード系の選手達は、レースの予定が立たない状態。

 キッツビェールの回転コースが雪不足のために変更になったのは、私の知る限りでは1969年以降では2回目である。このハーネンカムレースは今年で67回目の歴史がある大会(ワールドカップは41回目)なのであるが、この最悪の状況では変更もやむを得ない。この回転コースは、数多くある回転コースの中で一番難度の高いコースとして有名であるだけに、コースの変更は選手達にとっては残念なことであろう。滑降コースの後半部の横にある急斜面を回転レースの前半部に使い、中半部から後半部は滑降コースの最後になる中斜面と緩斜面を使って行われた。

 レース展開としては、天候が雪降り、その雪がアイスバーンの上につもり、スタートの早い選手には不利な条件になった。結果からみてもわかるように、第1シードでもトップシードの1番から7番の選手で上位に入ったのはブビ4のライヒ選手だけである。上位を占めたのは、第1シードでも第二グループの選手達が活躍した。何人か滑り、インサイドポール付近の雪を排除してくれ、硬いバーンが出てきてスキーの走りが良くなった。

 レースのポイントとして、コース上にアイスバーンが表面に出てきたブビ8以降の選手が有利となったことと、コースの前半部から中半部で斜面が左下がりになっていた。この斜面の傾きによって右ターンが見た目よりも深まわりターンに仕上げる事を要求されていた。左脚が利き足の選手が有利な状況であった。

 ビブ7の佐々木選手、念願のトップシード入りして初めてのレース。期待していたが、思いもよらず悪い成績であった。スタート直後、8旗門目の左ターンで入射角を鋭く取りすぎてインサイドポールの根元に、ブーツのバックルが引っかかりスキーの抜けが悪くなってしまった。上体が前方にかぶさり、体のバランスを崩し、右ターンで大まわりしてタイムロス。このミスを犯してしまった事が、その後の滑りで焦りを招いてしまった。トップシード入りした直後のレースでのこのミスはもったいない。いままでの作戦がムダになってしまった。佐々木選手が、今までにこのようなつまずきを犯した事がないだけに非常に残念だ。

 1位 イエンス・ビッグマルク(スウェーデン)
 今シーズン彗星の如く現れてきて、5レース目で優勝を成し遂げた。彼の滑りの特徴は、強靭な脚力をフルに使ってインサイドポールを目掛けて積極的に滑り抜く気力が持ち味だ。とにかく、全選手の中で、一番滑りに"勢い"を感じる。今シーズン中、何時かは勝つであろうと予想はしていたが、第1シードに初めて入ったこのレースでいきなり優勝するとは驚きである。ブビ10でスタートして、ただ一人50秒台のタイムをマークした滑りは全観衆が驚異に感じた事であろう。オーストリアのエースのライヒのタイムよりも一気に1.07秒速いタイム。彼にとって、この1本目の滑りは生涯忘れる事は出来ない"会心のすべり"であったろう。コース上がアイス状になってきたとはいえ、どことなくエッジが引っかかる状況であったはず。この悪条件などものともせず、持ち前の脚力と気力でスキーの走りに切り替えてしまった。先のレースでブビ60のベルトー(SUI)選手の優勝に加えて新人の台頭が著しく、2月の世界選手権大会の回転レースが楽しみになってきた。

 2位 マリオ・マット(オーストリア)
 ここ二つの回転レースで良い滑りをしてきているだけに上位に入って当然であろう。だが、如何に調子が上がってきたとはいえ、当然の如く上位に入る滑りをすることは難しいのである。レースを重ねるごとに、彼の欠点であるところのターン時に体がターンの方向へまわしこむ動きが少なくなったぶん、スキーの走りがよくなってきていた。持ち前の粘り強いすべりに、スキーの走りを良くするテクニックが加わり、オーストリアのナンバー2のスラローマーに成長してきた。1本目10位、2本目ベストタイムの滑りをして2位を確保した。

 3位 アロイス・フォグル(ドイツ)
 ブビ27からこの成績は、ベテランのなせる技であろう。エッジの引っかかる状況を把握しながら、スキーのサイドカーブを利用し、いかにスムースに滑り抜くかを考慮した滑りは素晴らしかった。

 4位 シルバン・ツルブリッケン(スイス)
 デビューの頃は、回転競技を得意としていたが、昨年はスラロームの滑りを忘れてしまったようであった。スーパーコンビでの回転レース時に滑りを思い出してきたようだ。旗門構成がこまかかったっが、長身を生かしながらインサイドポールの近くをすべり抜くことが出来ていたことが好成績に繋がった。

 5位 ベンジャミン・ライヒ(オーストリア)
 アーデルボーデンの回転レースで2位になり、本調子になってきたように思えたが、この取りこぼしは何が理由なのであろうか。私が思うにスケートリンクのようなハードアイスで、落下速度を利用できる条件を得意としているようだ。スキーの走りが良い状況では、旗門構成に合わせながら脚を同時に使う同時操作、また、脚を交互に使う交互操作を使い分けながらの滑りが彼の得意技なのであろう。今日のようにエッジが引っかかり、落下速度を得る事の出来ない条件下では彼の力を発揮できないようだ。
 1本目3位のタイム、ビッグマルクに1.07秒s差と大きく遅れた。2本目でも彼に0.60秒差の遅れ。2本共に破れ完敗。

 このレースは、ビッグマルクの爆発的なすべりに全選手も、全観衆もドキモを抜かれてしまった。今日は、ビッマルクの日であった。