2007年3月17日、大回転の第6戦(最終戦)がスイスのレンツェルハイドで行なわれた。このレースの結果次第で、今シーズンの大回転種目のチャンピオンが決まるという大切なレースであった。緊迫したレース展開になるであろうと期待していたが、結果から言うと、ベンジャミン・ライヒ(AUT)選手の失敗で、アクセル・ルンド・スヴィンダル(NOR)選手が優勝してチャンピオンの座についた。開幕戦のソールデン(AUT)での大回転レースが中止になり、代替えレースが行なわれなかったことはまことに残念だった。もう一レースあれば、展開はかなり変わっていたはずだ。種目別も、ワールドカップも。これがレースさ。
1本目ビブ1番でスタートしたライヒ選手が、前半の難所を滑り抜いた後のコース中半のインターバルの少ない旗門間でミスを犯してコースアウト。右方向から左方向への移行時にエッジの切り替えで右スキーに乗るタイミングが遅れてしまうという凡ミスを犯してしまった。難所を無難に滑り抜き、さあ、ここからアタックしょうと思った矢先でのミスである。普段はこのようなミスを犯すライヒではないが、彼にとって、ここに来てスヴィンダル選手の好調さが気になっていたことは事実であろう。今日は絶対に“勝つぞという意気込み”があり、ある意味では心の片隅に“焦り”があったのではなかろうか。これは本人にしか分からないことだが。
ライヒ選手の転倒が、このレースの興味を半減させてしまった。その一方ではスヴィンダル選手にとって、大回転種目別、総合優勝への道で断然有利となった。また、ライヒ選手のこのミスの持つ意味は非常に大きいものがある。ひとシーズンの長丁場のレースを消化して最後の土壇場での“まさかの凡ミス”を犯すなどとは想像もしていなかったであろう。このミスで、総合優勝も、大回転種目別チャンピオンの可能性を90パーセント以上失ったことになるからだ。ビブ1番のライヒ選手の後にスタートするスヴィンダル選手に何が起こるかはこの時点では分からないが、スヴィンダル選手にとっては作戦の変更は容易であったことは事実であろう。彼にとっては2本とも“ノーミス”を心がける事のみがこのレースでの課題であった。
1本目のコース設定は、全体的にオフセットの大きな旗門構成であった。とくにスタート直後の前半部の急斜面での5ターンはミスを犯しやすいセットであった。だが、この部分での滑りでは、長身の彼にとっては誰よりも有利であった。左右にターンを仕上げる体の動きは、体の上下運動を少し取り入れるだけでスムースに移行することが出来るという有利さがあるからだ。このレースでのライバルの一人のアレッサンドロ・ブラルドーネ(ITA)選手は、この部分を“横っ飛び”のテクニックを使うであろうから、ミスを犯す確率は高い。いわゆる、リスクの大きい滑りになると見るのが専門家の目であろう。
だがレースはやって見なければ分からないものだ。ブラルドーネ選手もただ者ではなかった。好調なだけに、コース前半部の難所で、得意技の“横っ飛び”のテクニックを完璧にこなし、スピンダル選手に0.01秒差であるが、1本目のベストタイムを叩き出したのである。この1本目のレース展開を見てさすがにワールドカップレースだと痛感させられた。
1本目3位のタイムは、フランスのベテラン、34歳のジョエル・シュナル選手、4位のタイムは、スイスの33歳のディディエ・キューシュ選手だから驚きだ。5位フィンランドのカレ・パランダー、6位カナダのフランソワ・ボーク、7位ボーディ・ミラー(USA)、8位がイタリアのマンフレッド・モェルグ。中堅どころの選手が、シュネルとクーシュの両選手に遅れをとることもあるのだから、レースというのは何が起こるか分からないものなのだ。
2本目のセットは、同じ旗門数で47ターン。オフセットは少し少なめでリズムの取りやすい旗門構成。ゴールする確率が高いので、1本目のレース展開よりも激戦が予想された。
2本目のベストタイムは、1本目ビブ28でスタートして10位を確保した、スイスのスラロームのスペシャリスト、マーク・ベルトー選手。合計で5位。強靭な脚力で一気に滑り抜いた。この滑りで来年の大回転レースでの活躍が楽しみだ。
2本目2番目のタイムを出したのがミラー選手。今シーズンで初めての会心の滑りでトータル3位に入りミラーいまだ健在なりを示した。大回転レースで表彰台の上に乗ったのは2005年12月(ビーバー・クリークのGS)以来の事である。ミラー選手の凄さは、種目こそ違え今季はスーパー大回転で種目別のタイトルを獲得した事である。
4位にディディエ・キューシュ。2本目は10位のタイムで4位を確保した。いまだに、強靭な筋力を維持しているのは、ハードトレーニングの賜物であろう。
5位は同じスイスのマーク・ベルトー。現状では、脚力にものをいわせての滑りであるが、来シーズンには、本格的な大回転の滑りを身につけてトップシード入りすることは間違いなしであろう。大回転のレースをこなす事によって、滑りにセンスを感じさせるものがある。
6位に入ったカレ・パランダーは、今季は全体的に期待を裏切った選手だ。取りこぼしのレースが多すぎる。一発に賭ける気力不足だ。テクニック的には問題がないように思えるのであるから、自信を持ってすべりぬく精神力を身につけるべきであろう。
7位のフランソワー・ボークは23歳で、1本目のみ好タイムを出すが、2本目でミスを犯して残念な結果になってしまっている。とにかく、今シーズンの成績を見て、もったいないの一言に尽きる。テクニック的には、急斜面での滑りに磨きをかけることだろう。
イタリアチームは、大回転種目では大変に強いチームだ。マックス・ブラルドーネ、ダビデ・シモンチェリ、マンフレッド・モェルグ、アルベルト・シェパッティ、ジョルジオ・ロッカなどなど。来シーズン、全員が確率の高い滑りを身につけたときのイタリアチームは怖い。期待したいところだ。 |