見谷昌禧のプロフェッショナルの視点 2006/2007
1、レヴィ(フィンランド)のスラローム
1位、ベンジャミン・ライヒ(AUT) 2位、マルクス・ラルション(SWE) 3位・ジョルジオ・ロッカ(ITA)
4位、ステファン・ティソ(FRA) 5位、ライナー・シェンフェルダー(AUT) 6位、ジェンス・ビグマルク(SWE)
Photos: Hiroyuki SATO

 ワールドカップの開幕戦が11月12日、フィンランドのレヴィで開催された。本来、開幕戦は、オーストリアのソルデンで開催されるのであるが、悪天候のため大回転コースの整備が不可能となっために中止。氷河地帯で開催されるソルデンのレースは、これまで中止される事はなかっただけに、温暖化の影響であろうか。今シーズンは雪不足に悩まされる事になりそうな予感がする。アメリカのビーバー・クリークのレースの前にレヴィでの回転レースが組み込まれていたので、選手達にとっては集中力を維持できたことであろう。この回転レースの開催を決断したアルペンコミティの英断を賞賛したい。

 11月12日、ワールドカップ回転レースが開催された。人工降雪機でつくられた雪が充分で完璧なコースコンディションであった。コースのプロフィールは、シーズン当初のレースに最もふさわしいコースであった。スタートからコース前半は緩斜面でリズムに乗りやすく、徐々に斜度が急になり、斜面にウエーブがあり技術的に難度を高め、スピードをコントロールしながらコースの中間を滑りきり、コース後半は緩斜面でスピードを維持しながらゴールする。

 全体的に見て決して難度の高いコースではないが、レース展開をエキサイティングにするには充分であった。その証拠として、1本目1位のベンジャミン・ライヒ(AUT)と30位のピエリック・ブルジャ(FRA)とのタイム差が1秒71の僅差の激戦状態。また、この激戦状態は、全選手の技術レベルに大きな差がなくなってきている事をも意味する。

 シーズン当初では、ライヒとジョルジオ・ロッカ(ITA)は別格として、その後に続く選手は誰がくるか予想が難しい状況になるであろう。トリノ・オリンピック後のシーズンだけに、各選手がマテリアルを変えて、己の可能性をステップアップさせるための挑戦がどのような結果になるかも興味深い所である。さらに、このレースを見た限りであるが、特に、2007年2月3日から18日までスウェーデンのオーレで世界選手権が開催されるので、地元の選手達の台頭が著しいように思えた。私個人としては、アメリカのテッド・リゲティ選手の活躍に興味がある。

 レースは、スタート地点 気温−13℃、雪温−6℃、ゴール地点 気温−10℃、雪温−6℃。非常に寒く、雪質はハードアイス。
 1本目 旗門数61。セッティングとしては、オーソドックスでリズムの取り易いコース設定。キーポイントは、コース中半のウェーブの部分にオフセットの大きなオープンテレゲラムがセットされており、左右に体を大きく動かしながら深回りターンを仕上げ、直ぐ後に、ヘャピンゲートがセットされており、体の動きを小さくしながら小回りターンを仕上げるセットがされていた。このコースで一番スピードに乗っている部分で、リズムの変化にすばやく対応する能力が試されていた。2本目 旗門数60。セッティングとしては、スピーディなものになっていた。コース前半の緩斜面がタイトな旗門構成であった。そのスピードを維持しながら素早い体の動きで旗門に対応し、特に、体のバランスを確保できる能力が試されていた。

 1位 ベンジャミン・ライヒ(オーストリア)、28歳、身長181cm、体重83kg。
 実力ナンバーワンのすべりは圧巻であった。1本目で2位のロッカには0.03秒の僅差であるが、3位のラルソンとは0.26の大差。今シーズンの彼のすべりは、昨年以上にスムーズになっている事に気付く。何が彼のこのスムーズなすべりを生み出す要因になっているのであろうか。この答えは単純明快である。アルペンレーサーの生命はスピードにある。如何にスピードにタフであるかである。彼は、年々スピードの次元の高い種目に挑戦してきている。スピードの次元の高い種目には、その種目に対応するための強い筋力と良いバランスが求めらている。スーパーG、ダウンヒルの種目にも出場して好成績を残している。スピードの次元の低い回転レースでは、すべての面で余裕のある体の動きで滑りぬくことが可能であるはず。その証拠として各ターンで体の動きにムダがなく、一瞬のエッジングでターンを仕上げているすべりは、真に、芸術的なすべりとも言える。このレースで圧勝したライヒにとって最大の敵はケガであろう。

 アルペンの歴史を顧みても、3冠王を獲得したトニー・ザイラー(AUT)とジャン・クロード・キリー(FRA)はスピードにタフでオールランド時代、その後に、インゲマル・ステンマルク(SWE)のスペシャリスト時代が到来したが、その状況のなかでもグスタボ・トエニ(ITA)、マーク・ジラルデリ(LUX)、ピルミン・ツルブリゲン(SUI)など少数の選手がオールラウンダーとして活躍。そして、ここに来てオールラウンダーの選手が活躍できる土壌ができてきたので、かってないほどのオールラウンダーを目指す選手が増えた。アルペン4種目に1種目(スーパーコンビ)がプラスされたからである。スーパーコンビ種目でもライヒは優勝しているので、今シーズンも総合優勝の最有力候補である。

 2位 マルクス・ラルション(スウェーデン)、27歳、身長183cm、体重83s。
 昨年の回転種目の最終戦で念願の初優勝を果たして自信に満ちたレース展開をして2位を確保した。1本目3位のタイムであったが、ライヒとロッカに大きくタイムを離された。2本目 スウェーデンのコーチがセッターだけに自信を持って滑りぬき、ロッカを抜いて2位。テクニック的には、まだまだ荒削りではあるが、タイトに滑りぬく気迫は素晴らしい。これからレースで成績を上げながら自信をつける事で、自然にスムースな滑りを習得するであろう。世界選手権大会までに6戦あり、テクニックに磨きをかけてメダルを獲得できる選手に成長するであろう。

 また、このレースで感じた事は、世界選手権大会がオーレで開催されるのでスウェーデン・チームのモチベーションに凄い物があった。チームの雰囲気も良く、今シーズンのスウェーデンチームは侮れない。このレースでチームメイトの若手のホープ、ジェンス・ビグマルクがビブ34番でスタートから6位、マルチン・ハンソンが16位。1本目で5位のタイムを出したアンドレ・ミーラーなど強力チームだ。ライバルにも恵まれているだけに飛躍的な進歩が期待できる。

 3位 ジョルジオ・ロッカ(イタリア)、31歳、身長182cm、体重93s。
 ここ2シーズンでは開幕戦から連勝の快進撃であったが、今シ−ズンはペース配分をしているのであろうか。1本目2位でまずまずのすべり、2本目13位のタイムと失速して3位にとどまつた。トリノ・オリンピックでのミスで、このアウトシーズンは失意のどん底の生活を送った事であろう。だが、このレースでのすべりを見る限りでは、相変わらず各ターンごとに両ヒザの前屈角度が深く曲げ、鋭くシャープなターンを仕上げていた。雪質の関係でエッジがひっかかりすぎてスキーの走りに影響があったかもしれない。これからの難しいコースで、彼本来のすべりで優勝する事であろう。

 4位 ステハン・ティソ(フランス)、5位 ライナー・シェンフルダー(オーストリア)は順当な成績。

 日本チーム
 第1シードに佐々木明(チーム・ティーシーエス)、皆川賢太郎(アルビレックス新潟)の2名、第2シードに湯浅直樹(スポーツアルペンSC)で強力チームであるがこのレースでは不振であった。
 13位の皆川選手は 2本共無難なすべりで今シーズンのポジションを確認したのであろう。

 佐々木、湯浅選手は攻撃した結果のミス。ここ数年、日本チームは年明けから調子を上げてきているので焦る事はなかろう。だが、チームとしては、実力が上ってきているだけにスパートしたい気持は理解できる。次のアメリカでのレースに期待したい。

 テクニック的には、日本選手の欠点であるウェーブに対するすべりに磨きをかけて欲しい。また、佐々木選手のスキーは今までのスキーよりも直線的に走る性能を持ち合わせているので、踏み込みの動きに重点をおいてのターンを正確に仕上げる事に専念して欲しい。スキーのひずみの反動力を利用するすべりを習得して欲しい。新しいスキーの性能を引き出し要領を習得した時、今ままでのすべりよりも1秒以上に早いすべりになるであろう。早いすべりで確実にゴールインするためには、インスペクションを正確に行う段階にきていると思う。このレースでミスするまでのスキー操作は素晴らしかった。特に、インサイドエッジの雪面に対する角度は、ライヒやロッカのその動きにひけをとらない。ターン後半でのスキーの走りを生み出す要因が見られたからである。

Equipment
Skier, skis/boots/bindings
1. Raich, Atomic/Atomic/Atomic
2. Larsson, Fischer/Nordica/Fischer
3. Rocca, Atomic/Atomic/Atomic
4. Tissot, Rossignol/Rossignol/Rossignol
5. Schoenfelder, Fischer/Nordica/Fischer
6. Byggmark, Atomic/Atomic/Atomic
7. Janyk, Salomon/Salomon/Salomon
8. Grandi, Rossignol/Rossignol/Rossignol
9. Pranger, Volkl/Lange/Marker
10. Zurbriggen, Fischer/Lange/Tyrolia