見谷昌禧のプロフェッショナルの視点 2006/2007
オーレ世界選手権特集
スーパー大回転
1位、パトリック・スタウダッハー(ITA) 2位、フリッツ・ストローブル(AUT) 3位、ブルーノ・ケルネン (SUI)
男子・スーパー大回転
 2007年2月6日スェーデンのオーレで世界選手権大会の男女のスーパー大回転レースが開催された。
 この地では1954年に世界選手権大会が開催されていて以来53年振りの開催となる。戦後、初めて日本が外国での大会に参加が許されたのが53年前の大会である。この大会に日本選手として参加したのが猪谷千春選手(当時猪谷少年と呼ばれていた)と水上久選手の2名である。猪谷選手は、初めての海外のスラロームレースで13位になっている。日本のアルペン界にとって外国での初参加のレースで、由緒ある地でもあるのだ。少々、話が横道にそれてしまうが、その時の父親の六合雄氏と千春少年とのNHKの電話インタビューで印象的な会話があった。テクニックの話で、千春少年が六合雄氏に外国人選手が自分と同じようなフォームでの滑りをしていたと言っていた。このことは、この時期以前までは日本は外国との交流がないので、外国選手の滑りの情報がなかったはずである。偶然にも滑り方が同じであったと言うことは、当時としては驚異的な出来事なのである。早いすべりは世界共通していることを意味する事を証明してくれたインタビューであった。猪谷選手のテクニックが、世界に通用する事を日本のスキー選手が知った瞬間であった。私は子供ながらにこのニュースを知っている。猪谷氏のその後の活躍については述べるまでも無い。

 話を世界選手権大会に戻そう。このスーパー大回転レースは、天候の関係で従来のスタート地点から104m下げてのレースとなった。昨年の3月末のワールドカップ最終レースでは、全長2172mのコース、ターン数40で、優勝したボーディ・ミラー(USA)が1分27秒78のタイム(3月の雪質)。今回のレースでは、全長1820m、ターン数32(コースの長さを327m短縮、5ゲート少ない)で優勝したイタリアのパトリック・スタウダッハーが1分14秒30。2月の雪質のタイムなので一概に比較することは出来ないが、コースを短縮しての開催に対するタイムの違いについて述べた次第。だが、このコースの短縮が優勝したイタリアの新鋭に味方をしたとも言えるかもしれない。雪が降り予定のスタート地点をパッキングで出来ないために、敢えてコースを短縮したのである。コースコンディションがハードとは言えハードアイスではない。このことからビブの早い選手の方がコースの荒れない内にスタート出来たという有利さがあったように思える。

 レース展開は、快晴のもとスピード系のレースとしては、斜面の変化、雪面の状況などすべての面で最高のコンディションであった。気温、スタート地点−16度、ゴール地点−14度。雪温、スタート地点−12度、ゴール地点−10度。雪質ハード。

 1位 パトリック・スタウダッハー(イタリア)
 ビブ12でスタートしたスタウダッハー選手は、いままでこれほどパーフェクトな滑りをしたことがないであろうと思われるくらいに素晴らしい滑りを展開した。
 スピード系のレースでは、ハイスピードターン、プレジャンプそしてクローチングフォームの3つの要素のテクニックが要求される。この3要素の中でもスピードレースでのポイントは、クローチングフォームの大きさが勝負を決すると言っても過言ではない。言うまでも無く、フォームは小さい方が有利である。

 まず、コース前半でのハイスピードターンのライン取りは、無理が無くスムースなターンを描きながら滑り抜いていた。ほとんどの若い選手は、スタート直後力んでスキー操作がスムースに行なえないで、ターン弧が下に膨らんでタイムロスを犯す選手が多いもの。彼は、左右のターンでのライン取りが良く、スピードに乗ったすべりをしていた。若手にとって一つの難所をスムースにすべり抜くことができたので、次のコース中半部で大きなウェーブのある部分での右から左への移行で、先が見えなく左ターンの方向を決めるタイミングが難しい地点で誰よりも良いコース取りをしていた。この部分でのターンの方向が良かったので、次に来るプレジャンプも成功(ジャンプするタイミング、ジャンプする距離)し、特に、ランディング時でバターンという音も立てずにスムースに着地しながら上からのスピードを維持したすべりは賞賛に値する。彼はここまでの滑りで上位を意識出来たはず。何故ならば、この後のコース後半部は得意とする中斜面でのハイスピードターンであるからだ。ゴール直前の2双旗から3双旗での深まわりのターンもクローチングフォームを長くとりながら滑った勇気が勝利を勝ち得た要因である。この最後の部分でクローチングフォームを組んでの滑りが出来たのであるから、コースの各部分でのつなぎで当然誰よりも長くクローチングフォームを組んで滑っていたということになる。スピード競技は、風圧との勝負であることも知り抜いてのクローチングターンを駆使しての滑りであった。

 前半部での各ターンがスムースに仕上げることが出来たので、今日は“いける”と気づき、一気に滑り切れたのであろう。誰よりも高速滑降のテクニックを忠実に駆使していたことが勝利に繋がったと言える。イタリアチームにとって高速系での勝利は、実に53年振りである。

 2位 フリッツ・ストローブル(オーストリア)
 彼のこれまでの実績は素晴らしいが、今シーズンは雪不足のためスピード系のレースがことごとく中止あるいは会場が変わり、調子を整えるのに苦労していた。ここまでは、カナダ、アメリカ、ヨーロッパのレースでは苦戦している状態であった。
 コースコンディションがハードアイスでなかっただけに、ビブ20はストローブル選手にとっては幸運に作用した。勝敗の分かれ目は、クローチングターン時での谷スキーが少々ブレていてタイムロスを犯した。滑降競技でのテクニックをすべて習得しているはずの彼にとってターン時での仕上げ方にミスがあったのは“焦り”があったのであろう。谷スキーに乗る動きに難があった。だが、ここまでの不振を払拭するように、このポジションの確保はベテランの成せる技である。

 3位 ブルーノ・ケルネン(スイス)
 ビブ17のケルネン選手もコースが荒れていない状況の内にスタートして得をしたグループの一人。ベテランらしくコース取りは良くスムースな滑りであった。今シーズンでの快心のすべりであったろう。脚力にものをいわせてのターンの切れ味はさすがなものがあった。

 結果からみて、第1シードの選手達が、この後につづいたのは、コースコンディションが影響した証拠である。勝利は運が大きく左右する。特に、ビックゲームでは運が半分以上に影響するものだ。
 ボーディ・ミラー選手は、コース中半のウェーブで滑る方向が見えない部分で、インサイドポールを狙いすぎて左腕がポールに引っかかりすぎて体のバランスを崩してタイムロス。トリノ・オリンピックでもこの種のミスで圏外に去っている。滑降競技なのであるから、インサイドポールにぶっかってのタイムロスは意味がないと思うのだが、ミラー選手は何処までも直線的なライン取りをするタイプ。私としては、勝って欲しいのだが。この種のミスで、いくつかのメダルを失っているように思える。

 ヘルマン・マイヤー選手は、スムースな滑りをすることでは彼の右に出る者はいない。これまでの成績ではナンバーワンのポジション。テクニシャンではあるが、パワー不足でスキーの走りが失われたように思える。ハードアイスのコンディションであったならばチャンスがあったろう。この荒れたコース状況では、スキーのブレを押さえきるパワーが不足していた。

 日本の佐々木選手が、このレースに挑戦したことは素晴らしい事だ。スピードの次元の違うレースでの体験は、精神的にも、体力的にも必ずやプラスに働く。もう一段高い次元でのスラロームテクニックを開発してくれることを期待する。

女子・スーパー大回転
1位、アニャ・パーション(SWE) 2位、リンゼイ・キルドウ(USA) 3位、レナーテ・ゲッチル(AUT)
 最高のコンディションでのレースが開催された。コース全長1829mで従来から使用しているコース。
 昨年の優勝者ニコル・ホースプ選手、1分19秒45。このレースでの優勝者アニヤ・パーション選手、1分18秒85。このタイム差は、雪質の関係であろう。

 このレースでの勝負の分かれ目は、3つジャンプをいかに克服するかにあった。特に、2つ目のジャンプの方向が難しい。ジャンプの直ぐ後に左ターンから右ターンへの移行で旗門間の落差が少なく、深まわりターンが要求されていた。ジャンプ時に左方向に向ってジャンプし、右ターンを少し外方向からターンの始動をし、ランディングしてからインサイドポールの方向へ舵取りしながら右ターンを仕上げる事が理想。ジャンプの方向が右方向になるとランディングしたと同時にインサイドポールが目前に迫ってくるので、右ターンが下に膨らんでタイムロスを犯してしまう。次のポイントは、ゴール前のジャンプのテクニックとゴールへのライン取りにあった。

 1位 アニャ・パーション(スウェーデン)
 前半の各ターンでは、ライン取りに集中し、中半から後半でアタックしたように思えた。パーション選手は、最後のゲートでのライン取りが他の選手と違っていた。この部分の滑りの違いで優勝を勝ち取った。
 ライン取りの違いは、ゴールの最後の旗門のインサイドポールの側を滑ることに現われた。すなわち、最後の旗門からゴールへの距離が近いコース取りをした。ゴールまでの滑る距離は近いが斜度が緩いので落下速度を利用出来ないという不利な条件がある。だが、あえて近いコースの選択をしたのは瞬間的に“勝負カン”が働いたようだ。他の選手達は、最後のジャンプ台の外方向からジャンプして、少しでも斜度の急な部分をすべりスピードの維持を測りながらゴールを目指していた。
 結果からみて、パーション選手の積極性が勝利を呼び込んだといえよう。この大会前の3レースをキャンセルして、スタミナを補給した作戦が功を奏した。

 2位 リンゼイ・キルドウ(アメリカ)
 長身を生かして攻撃的な滑りで2位を確保した。トップシードの選手だけにテクニック的には問題はない。この経験を生かしてベテラン勢に勝つのは時間の問題だ。

 3位 レナーテ・ゲッチル(オーストリア)
  ベテランの本領を発揮しての3位は自分自身驚いている事であろう。